旬知らず
冬から春へ衣替えだ。私は贅沢にも通勤用の防寒着をニ着持っている。最近もっぱらうすい方を着ていたが、それも、もうそろそろ脱いで良さそうだ。
今年の冬はことのほか寒かった。貼るカイロというのがあって下着に貼るとホコホコあたたかい。一番下の下着に直接貼ると熱すぎてヤケドしそうなので重ね履きした二枚目のパッチに貼っている。寒がりだから腰の左右と真後ろの三点貼りだ。毎日毎日貼ったり剥がしたりでパッチの生地が痛んだらしい。今朝、昨日貼ったのを剥がそうとしたらパッチの生地が破れた。明日からは三点貼りは止して真後ろの一点だけにする。
花粉症の方は、やはりクシャミが止まらない。しばらくクシャミしないでいると周囲の人が「その後花粉症の方はいかがですか」と問う。
あっ、そうだったと思い出して、またクシャミする。
注意を鼻腔内に向けると、確かにそこはかゆい空間である。“うん、やっぱりかゆいわい”と、せずともよいかゆみ確認などするから治るものが治らない。以前クシャミした途端にギックリ腰になったことがある。あぁ恐ろしい。
クシャミの回数に比例してティッシュペーパーの使用頻度が増すのはしかたがないことである。机の引き出しにたくさん貰い溜めてあった宣伝用ティッシュペーパーがあと残り少なくなった。私が最近乗り降りする地下鉄駅の出入り口周辺には例のサラ金広告ティッシャー（ティッシュペーパー手渡し人）がいない。需要が供給に追いつかぬわけだ。
先日用があってＪＲ三宮駅で降りたとき、さぁ今日はサラ金広告ティッシュを集めようと思った。で、配っている人の側を擦り寄るように幾度か行き来したが、あれは拍子が整わぬとなかなか貰えそうで貰えない。四度チャレンジしてやっと一つ。
実はもう一つもらったが、手渡されたのはティッシュペーパーじゃなくてキーホルダーだった。やはり広告スポンサーはサラ金だ。陰気そうな灰色顔のおっさん人形が帽子をかぶっていて、その帽子の上にキーホルダーの輪が取り付けられていた。キーホルダーの輪が、もし人形の首につけられていたらサラ金首吊り人形だ。
縁起が悪いから捨てたかったがゴミ箱が見つからない。しばらくの間、灰色顔のおっさんと道行きを共にした。
週末ごとに悪天候が続きここしばらく釣りに行ってない。海の様子は魚屋のシンコ（春イカナゴ）で知るのみだ。三月ニ日のイカナゴ漁解禁以来通勤途中にある某スーパーの店先にも活イカナゴやシンコの釜上げが出る。それが、仕事で残業を終え店先を通るともう売り切れている。なにせ旬の味。売れ残っていたらおもしろくない。完売かぁ、あぁ、よかったという気持ちと、今日は見そびれて残念だなぁという気持ちがある。
肝心のわが家の食卓に解禁後幾日経ってもイカナゴの釜上げが出ない。「おい、なんで釜上げ買うて来んのや」と問うと「こないだから何べんも買ってきたでしょう」と言う。そう言われればニ月の末頃に幾度か食べた。せっかく買ってきたものにケチつけるのは嫌だからだまって食べてはいたが、あれは昨年の冷凍物である。味が良くなかった。きっと値も安かったのだろう。
「アホか、あれは去年の冷凍物やないか、今年の取れ取れを買って来い」と私。
「まだ高いです」と、かみさん。
私はまだ旬を知らない。